先週の金曜日にネットニュースで HP(Hewlett Packard) のノートパソコンのエントリーモデル、HP Stream 11-ak0009tu が税別21,000円で売られているという記事を読み、ダイレクト販売のサイトを見てみると、確かに 11インチ TN 液晶、CPU Celeron N4020、メモリ4GB、ストレージはeMMC 64GB というローエンドのモデルが21,000円だ。私が持っている2台の ASUS の VivoBook (E203MA と E203NA)とはほとんど変わらないスペックで、ボディサイズもほぼ同じ。一瞬 ASUS の OEM かとも思ったが、各種コネクタの位置が全然違うので、やはりオリジナルモデルだろう。ローエンドパソコンはもういらいないよ、とは思いつつも、やはり HP のパソコンというだけで、物欲が沸く。結局我慢しきれず期限ギリギリの日曜日の夜にポチってしまった。
予定通り5日後に届いた箱の中から本体を取り出すと、「うわっ、ちっさ!」そして「ずっしり重い」。もちろん ASUS の VivoBook と比較しての話だが、寸法は縦横それぞれ数mmの違いなのに、ASUS よりもややエッジの立ったデザインのためか、ずいぶん小さく見える。そしてわずか100g程度の差ではあるが、もともと1㎏クラスのパソコンなので、1割の違いが大きく感じる。さらにディスプレイを開いた瞬間に感じたのは、ASUS のパソコンにはない、がっしりとした剛性感。続いてキーボードを叩いてみると、これも ASUS のパソコンと違って、パコパコした薄っぺらさを全然感じない。光沢を抑えたボディーカラーと、アルミ風なヘアラインの入ったキーボード面。ASUS がかわいらしいガジェット感を出しているのに対し、これはいかにもビジネスモデルといった佇まいだ。
同じ11インチ画面の ASUS E203MA と並べるとこんな感じである。右の HP Stream 11 の方が、ほんのわずかに小さい。30年以上もコンピュータ業界にいると、いろんな伝説を持ったメーカが消えていった歴史を体験している。70年代に PDP-11 や VAX などの小型コンピュータ(とはいっても、ロッカー1台分くらいはあるが)で、IBM の牙城に食い込み、90年代には Alpha という、超高速 RISC プロセッサを開発し、インテルに挑んだ DEC、その DEC は1998年に Compaq に買収された。ニューヨークの証券取引市場で株価の大暴落が起きた時、唯一取引トランザクションの急増に耐えて動き続けた、クラスタシステム「ヒマラヤ」を開発した Tandem Computers、その Tandem も1997年に Compaq に買収された。IBM 互換機というビジネスの中で、本家 IBM を超える高性能、高品質、高価格なパソコンを販売し、CPU バスとメモリバス、ISA/EISA バスを、それぞれ独立したクロック数で動作させるという、現代の PC 設計の基本となったトライフレックスアーキテクチャを開発した Compaq Computer。そして DEC と並び高性能なワークステーションを開発し、世界初のインクジェットプリンタでコンピュータの印刷という仕組みを根本から変えてしまい、自社の RISC アーキテクチャである PA-RISC を捨ててまで、インテルの次世代 VLSM アーキテクチャ IA64 の共同開発をした(もっともこれは成功とは言えなかったが)、Hewlett Packard、その HP が2002年に買収したのが巨人 Compaq である。つまり現在の HP には、アメリカのコンピュータテクノロジーの歴史がすべて詰まっているのだ。
DEC も Tandem も Compaq も HP も、当時あこがれのメーカーで(Tandem はパソコンは作っていなかったが)、もちろん台湾製の安いパソコンは、必要十分だけれども、やはりいつかはアメリカの高級ブランドを手に入れたいと思っていた。今 HP のパソコンを買うということは、それらすべてをまとめて手に入れてしまうということなのだ。
さて、わずか21,000円のパソコンは、もちろんライセンス料の安い(と思われる)、Windows10 Sモードで動作している。そういえば Windows8.1 の時代にも Windows8.1 with Bing という格安のライセンスがあった。あれはマイクロソフトがパソコン初心者ユーザを、自社の検索サイトに導く目的で、PC メーカに格安で OEM 提供したと聞くが、今回の Sモードは、おそらくパソコン初心者ユーザに、マイクロソフトアカウントを登録させることが目的なのだろう。Sモードは解除すれば通常の Windows として使えるが、解除のためにはマイクロソフトのユーザアカウントが必要になる。というわけで、生涯1度だけしか見ることのない、この Sモード解除の画面をキャプチャしておいた。これでストアアプリ以外のデスクトップアプリケーションも普通に使えるようになる。早速 CINEBENCH R20 で性能測定したところ、スコアは226と、残念ながら前世代の Celeron N4000 と変わらないものだった。N3350 から N4000 へは、キャッシュメモリの変更や、CPU の内部アーキテクチャの変更を伴っていたが、今回はブーストクロックがわずかに上がっただけで、そのほかは全く変わらないのだから、当然ともいえるだろう。しかしこのブログをここまで書いてみて、やはりキーボードの剛性感が素晴らしく、使い心地は最高にいい。バッテリーライフもカタログで13時間。実際に1時間使って10%も減らなかったので、10時間くらいは使えるだろう。丸1日は仕事で使っても、充電しなくていい計算だ。唯一残念なのは、AC アダプタは小さく軽いのだが、旧態依然とした羊羹型のもので、AC ケーブルが別(最近のコンパクトモデルの AC アダプタはプラグ一体式が多い)で、しかもそのケーブルが、3pin ミッキーマウスタイプで日本では使い道のないアース線付きというもの。あまりにもやぼったいので、私はすぐに Amazon で20cmのショートケーブルを注文した。さらに DC ケーブルも、わずか45Wの出力なのに、1500Wのテーブルタップに使うような太いものだ。こちらは交換できないので、本体のコンパクトさを台無しにしてしまう。このあたりの野暮ったさも含めて、老舗 HP の魅力ということか。
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